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呪縛 金融腐蝕列島Ⅱ [金融小説]

金目当ての連中(ヤクザと総会屋)に弱みを握られ、つけこまれる存在としての銀行を描く。
呪縛〈上〉―金融腐蝕列島2 (角川文庫)

呪縛〈上〉―金融腐蝕列島2 (角川文庫)

  • 作者: 高杉 良
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2000/10
  • メディア: 文庫

本書を読めば、ゆすり・たかりの構図が見えてくる。金の流れの背後にあるものは、弱みを握っている者と握られた者同士の連係プレーであり、あるいは、互いの利益のために銀行という社会的機関を私的に活用しようとする者達の蠢(うごめ)きである。

本書は首都圏のトップクラスの架空の銀行を舞台とする。この銀行のトップが、古くから大物総会屋と深い付き合いがあったことから、彼らにつけ込まれ、利用されるようになった。利用されるというのはもちろん銀行の中の金が彼らの元へと流されるということである。

大物総会屋は、自分の子分を銀行トップに紹介した。この男に金を貸してやれということだった。銀行は彼に金を貸した。なぜ上手くいったのか。それは、大物総会屋が弱みにつけ込んだからだった。融資を担当した銀行員が、こともあろうに大物総会屋が紹介した(融資を頼んだ)旅館の女将と不倫の中になってしまい、「キンタマを握られた」(本書より)からである。ここから、大物総会屋の子分とのズブズブの関係が広がっていくことになる。なぜなら、この融資を担当した男が銀行のトップへと登りつめていくからだ!

このような男がトップとなったからには、この銀行は常に弱みをさらけ出していることになる・・・弱みにつけ込み、金を吸い取ろうとする連中に。金と女。そして、それを使った脅し。つけこみ。

弱みを握られた男は、しかし、それでふさぎこむようなタマではなかった。大物総会屋へ利益を供与しつつ、その付き合いを深めていった。つまり、不正融資を続けていった。この男はまた、多くの部下に目をかけてやって上へと引っ張った。つまり、頭取や会長へと引っ張っていった。こうして恩を着せておくという形で自身の影響力を持ち続けたのだ。彼は頭取から会長へと登りつめた後も、相談役として強い権力を維持していた。

このような銀行であるから、上の者の不正融資を下の者が厳しく指弾することが難しいのである。これは、銀行につけ込む総会屋やヤクザにとってはおいしい状況である。彼らにしてみれば、弱みを握られている者がトップであり続ける方が良いのである。こうして、持ちつ持たれつの汚い関係ががっちりと出来上がっているわけだ。  

これを象徴する場面として例えば、何百もの購読雑誌がある。銀行が購読している雑誌なのだが、この数多くの雑誌は高額であり、それを毎月・毎年購入するのにも銀行は大金を払わなければならない。なぜそんなことをするのか。それは、この雑誌が総会屋が発行しているものだからだ。買わなければ、総会屋は街宣車で有ること無いことわめきちらし、株主総会で罵声を浴びせてくる。これを避けるために大金を払い、口封じをしなくてはならないのだ。総会屋はもちろん、最初から金目当てである。そのための言論であり、雑誌なわけだ。よくできた集金システム、錬金術である。

こういった、弱みにつけ込まれた形で出世をしてきた自分自身について「君はまだ若いが、清濁併せ飲むことも、必要なんだ」と開き直って言うことができるのが、この架空の銀行のトップの男なのだ。会長職を退いた後も自身の影響力を誇示し、後進の人事に介入してくる。「君が今、会長でいられるのは誰のおかげだと思ってるんだ!」といった具合に恫喝することができる。それだけで足りなければ、別の有力者を銀行外から持ってきて、行内の重要事に介入させる。

もちろん、こういった形で介入を許せば、それだけ銀行の独立性が失われ、何かとつけ込まれることになってしまうのだが、それを許してしまうのがこの男なのである。鈍感であり、マイナス面を見ることができない。つまり、あまり合理的な思考をすることができず、自分が利用され、つけ込まれている弱い存在であることよりも、権力を振るうことができる強い人間であるという面ばかりを見ている。だから、銀行の自主独立性を高めるための合理性は持っていない。だから、総会屋ではないが、筋の悪い融資先の不動産会社にもつけこまれて銀行への介入を許している自体にも、「この不動産会社とは、運命共同体なのだ」と言ってしまう。

このような、清冽ではなく、銀行の自主独立性を高めるための合理的思考が弱く、ズブズブの現状に鈍感であり、なおかつ権力欲の高い男こそは、闇社会を含めた多くの人間にとって利用しがいがあるわけだ。トップとは、かくあるべし、と言えるだろう。利用したい人にとっては。

このような銀行での不正融資が、ついに大々的に発覚し、マスコミと世間一般から厳しく指弾されるようになった。この状況に立ち向かおうとするミドルクラスの若手社員を主人公となっている。彼が、彼と同じく現状を改善したいと願う行員と共に果敢に行動に打って出るのが本書の主な流れである。

上に述べてきたような、金をめぐって歪められた銀行を、どうやって変えていくのか。また、変えていこうにも、それを許そうとしない諸勢力の介入をどうやって排除していくのか。これが本書の楽しみ方となる。


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